2022年02月01日
利根中央病院
産婦人科医長
西出麻美
産婦人科にかかるのは若い人だけ、と思っていませんか? 実は骨盤臓器脱は閉経後の女性が経験する病気で、たくさんの人が受診しています。
恥ずかしさもあり受診を戸惑う方もいますが、今回で正しい知識を身につけ、心配な症状があれば早めに受診して、これからの生活を健やかに過ごしましょう。
骨盤臓器脱は腟から臓器が出てくる病気
骨盤臓器脱とは子宮、膀胱、直腸などの骨盤内にある臓器が下がり、腟(ちつ)から出てくる、女性特有の病気の総称です。以前は、子宮脱、膀胱脱、直腸瘤などと呼ばれていましたが、一つだけの臓器が下がることは少ないため、まとめて骨盤臓器脱と呼ぶことが多くなっています。腟の外に出てくる臓器で最も頻度が高いのは膀胱で、ついで直腸、子宮となっています。(図1)
初期症状は股の違和感
「夕方になると股に何かが挟まっているような違和感がある」「お風呂で股にピンポン球のようなものが触れる」という症状で気づくことが多いです。膀胱が下がることで、おしっこが近い、出にくい、もれてしまうなどの症状が出ることもあります。さらに症状が進むと、腟が下着と擦れて出血をしたり、尿路が曲がって腎臓にも障害をきたすことがあり注意が必要です。
出産後2人に1人が経験する
これらの症状は他人に相談しにくく、また年齢のせいと考えて病院に受診しない人もいらっしゃるかもしれません。しかし実は、出産を経験した人の半分近くが骨盤臓器脱になると言われており、多くの方が経験しうることなのです。
周りの方に相談してみると、「私も!」と悩んでいる方は多いかもしれません。早い人では分娩後から症状がある方もいますが、病院で治療しているのは70歳~80歳台が大半です。
骨盤底筋体操で予防しよう
他人事ではない骨盤臓器脱ですが、原因はなんでしょうか? そして予防法はあるのでしょうか? 骨盤の臓器は筋肉や靭帯などで支えられています。
しかし、妊娠・出産で損傷を受けることで骨盤臓器を支えられなくなり、腟から骨盤臓器が落ちやすくなるのです。そのほか、肥満や便秘、閉経による女性ホルモンの低下、骨盤底筋筋力低下などが原因として挙げられます。
もし私たちが予防できるとすれば、太りすぎないことと、骨盤底筋を鍛えることです。骨盤底筋体操(図2)は横になって行う方法など色々とありますが、毎日続けることが大切なのでいつでも気づいた時に腟をしめる運動を行うようにしましょう。朝起きてから脱出してくるまでの時間が延びたり、症状が軽くなったりします。
しかし一度下がってしまった臓器は自然に元に戻ることはなく、症状は基本的に徐々に悪化します。ご紹介した体操は、症状を軽くしたり治療までの期間を延ばすためには役立ちますが、いつかは治療が必要になります。病院では診察台に上がっていただき、脱出している臓器が何か、どのくらい出ているかなどを評価します。症状が気になるようでしたら一度産婦人科を受診してみてくださいね。
治療は手術がお勧めです
当院で行っている主な治療は、ペッサリーと手術の2つです。
ペッサリーとは丸い器具のことで、これを腟の中に入れて脱出を直接抑えます。自分で出し入れをすることも可能ですが、多くの人は難しいため3~4ヶ月ごとに病院で診察・交換をしています。外来でできるので希望される方は多いのですが、徐々に病気が進行することでペッサリーを大きくしないといけなくなったり、ペッサリーでは抑えられなくなったりする事があります。
腟の中に器具を入れますので、出し入れの際に痛みを伴ったり、炎症や出血の原因となることもあります。また、ペッサリーはやめればまた脱出してきます。生きている限りずっと病院での交換が必要になりますので、私個人としては、手術をお勧めしています。
手術というと、「痛い」「怖い」と思われるかもしれませんが、当院で行っている手術は腟から子宮を取り腟壁を形成する手術で、お腹に傷は残りません。全身麻酔で1時間~1時間半程度の手術です。腟からの手術なので痛みは少なく、みなさん翌日からスタスタと歩いていることが多いです。
入院期間は10日間で、退院後はほぼ通常通りの生活が可能です。最近は1週間に1人が当院でこの手術を受けており、群馬県では一番症例数があると自負しております。悩んでいる方がいらっしゃいましたら、ぜひ安心して相談に来てみてください。