要介護を予防する~フレイル予防~

2016年06月01日

利根歯科診療所
利根歯科診療所 歯科医長
金子 貴紀

訪問診療を私が担当して4年目になります。2025年には65歳以上の割合は30%を超えるとの試算が出ており、すでに超えている地域もたくさんあります。この利根沼田地域でも往診先の患者様は軒並み90代、80代前半の方などは若いとさえ思ってしまいます。治療の内容は入れ歯に関することが多いですが、最近多く寄せられる相談は長期入院から退院したら上手く食べられなくなった、あるいはむせて食べられないといった方です。身の回りにももしかしたらそのような方がいるのではないでしょうか?

食べられなくなる原因は?

最近歯科ではフレイルやサルコペニアといった言葉を耳にします。砕けた言い方をすればフレイルとは様々な要因から要介護状態の一歩手前の状態を表しており、サルコペニアとは、筋肉量が減少してしまう状態のことを表します。たとえば、長期入院などで寝たきりの状態が続き、栄養状態も低下してしまい、筋力が低下してしまう。そうするとさらに消費するエネルギーが低下するためにさらに栄養摂取が低下していきます。そこに精神的要因も絡み介護が必要な状態に移行してしまいます。つまり、このフレイルを予防することが要介護を防ぐ手立てになるともいえます。

歯科とサルコペニア

歯科とサルコペニアの関わりも最近では多く取り上げられています。特に栄養にかかわる分野においても口は食物の入り口であり、低栄養を予防するうえでもとても重要な器官です。いくつか往診をする中で事例をご紹介します。

1)脳梗塞で退院したが口に食べ物を入れたままなかなか飲みこめないという方 

この方の場合には脳梗塞のマヒにより舌の動きが非常に悪くなってしまい、口の中の食べ物をうまく咽頭に送り込めないためになかなか飲みこめない状態でした。このようにうまく舌が動かないときにはリハビリテーションを行い舌の筋力を上げます。しかし、それもうまくいかない場合は入れ歯の厚みを増して舌の動きを補ってあげることで上手く食べ物を送り込めるようにします。実際にそうしたケースで飲みこみがよくなったケースもあります。

2)食べるとむせてしまう。水もむせてしまう方。 

このような方も最近は多く、まひなどがなくてもむせてしまう方は多いようです。このような方はまずは食べる時の姿勢が重要です。【図1】のような正しい姿勢で食事をとることでむせを予防することは可能です。例えば足が地面についていない、首が後ろに傾いている、お尻が前の方に行ってしまうとむせやすくなります。また姿勢だけでなく一口の量が多すぎるとむせにつながることになります。
また、レントゲンや内視鏡を用いた診察により食形態を考えることも大切です。
さらに、唾液の量が低下し口の中が乾燥すると飲みこみにくくなります。適度に口を潤しておくことも大切です。

図1:正しい食事の際
図1:正しい食事の際

3)入院中に入れ歯を外していたら入らなくなった方

最も多く見受けられます。長期入院により歯茎がやせてしまう、あるいは口の周りの筋肉が委縮してしまい入れ歯がいれなくなってしまう、口が乾燥して入れ歯を入れると痛い方がいます【図2】。入れ歯が入っていないと栄養状態が低下してしまいます。また、あっていない入れ歯は汚れもたまりやすく誤嚥性肺炎の原因にもなります【図3】。きちんと入れ歯を入れて、適切な栄養を取ることは入院期間が短くなるということも報告されています。これはたとえ入院中でも修理、新製することが可能です。実際に入れ歯を修理し、栄養を取ることで覚醒状態がよくなったケースは多々あります。

  • 図2:入院中で口の中がひどく乾燥している
  • 図3:汚れがついている入れ歯

フレイルを予防するには

実際に上記に記したケースは病気などで長期入院が課せられ筋力が低下してしまったケースや脳梗塞の後遺症によるケースで避けられないものも多くあります。入院して治療を施す所もあります。しかし、きちんとリハビリテーションを行うことで回復することも可能です。
また予防には適度な運動はもちろんですが当院で勧める「あいうべ体操」も効果的です。
高齢者の方には歯科治療を受けたくても動けなくて中々治療を受けることができない方もいると思います。利根歯科診療所では訪問診療も行っています。治療の内容は機材、材料の制約があるのですべて診療所と同じようにとはいきませんが、虫歯の治療はもちろん入れ歯の治療、歯周病の治療など幅広く対応しております。健康で最後まで自分の口から食べられるようこうした予防に取り組みましょう。

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