2022年03月01日
利根中央病院
消化器内科医長
小林剛
肝臓は沈黙の臓器と言われ、症状が初期には出現しないことが多いです。健康診断で肝機能異常を指摘されているのに、症状がないからといって放置してはいませんか? 放置すれば、気づいた時には肝硬変や肝がんということもあるかもしれません。
肝臓の働きは?
肝臓が体の中で最も大きな臓器で、肝細胞が集まってできています。生命を維持する上で重要な役割があり、主に次のような働きをしています。
①栄養の代謝・貯蔵
食べ物から摂取した栄養素が運ばれ、生命を維持するために必要な物質に作り変えたり、蓄えたりします。
②有害物質の解毒
血液の中に入り込んだアンモニアやアルコールなどの有害な物質を分解し、無害な物質に変えて体外に出せるようにします。
③胆汁の分泌
食べ物に含まれる脂肪の消化・吸収や、体内で不要になった物質の排泄を助ける胆汁を分泌します。
肝臓病について
肝臓病の主なものとして急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変、肝がんがあります。
肝炎は肝臓の細胞が破壊される病気です。肝炎が持続すると、肝臓が硬くなり機能が低下し肝硬変となります。
肝がんは肝臓から発生する原発性肝癌と、他の臓器の癌が転移した転移性肝癌があります。原発性肝癌は肝細胞から発生する肝細胞癌で、肝硬変が原因であることが多いです。(図1)
出現する症状
肝臓病は症状が出にくいものの、急性肝炎は発熱、倦怠感、咽頭痛、頭痛などの感冒症状、次第に黄疸、褐色尿、食欲不振、嘔気、腹痛などが短期間で出現し、さらに劇症化すると意識障害が出現します。慢性肝炎や(代償性)肝硬変は徐々に進行するのでだるさや体のかゆみ程度で症状は軽く、非代償性肝硬変と言ってかなり進行した状態になると腹水や浮腫、意識障害、出血(吐下血など)、黄疸などの症状が出現します。肝がんも初期には症状が出現せず、癌が大きくなると腹痛などの症状が出現します。症状が出る前に肝炎治療を行うことで、肝硬変や肝がんに進行するのを予防することができます。
原因
肝炎の原因はウイルス、飲酒、脂肪肝、薬剤、自己免疫性疾患など様々です。最近は健康食品によるものも増え、ウコンやナッツなど食品による肝炎の報告もあります。体にいいと思っていたものが、かえって悪さをすることもあるようです。
肝硬変の成因は約半数がウイルス性、2割が飲酒、1割がNASH(非アルコール性脂肪肝炎)で、アルコールによる肝硬変は増加傾向です。
飲酒について
節度ある適度な飲酒量は1日平均 純アルコールで約20g、女性はその1/2〜2/3程度フラッシング反応(飲酒で赤くなること)を起こす方や65歳以上の方はアルコール代謝能力が低いためより少なくすることとなっています。純アルコール量はアルコール飲料の度数(%)/100 X 飲酒量(ml)X 0.8で計算できます。具体的にはビール500ml、日本酒1合(180ml)が純アルコール量20g程度です。週2日は休肝日を設けましょう。また薬の治療中や、入浴や運動や仕事前、妊娠中や授乳中は飲酒を避けてください。
一生に一度は肝炎検査を
当院の人間ドックで検査ができます。また、当院で手術(局所麻酔手術は除く)をした方は、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスに感染していそうかどうかを血液検査しています。結果は主治医に確認して下さい。
C型肝炎ウイルス
1989年に発見され、その発見が2020年にノーベル医学生理学賞となっています。肝硬変の原因の約4割を占めます。診断をされて治療を受けているのは約半数と見積もられています。主に血液を介して感染し、以前は輸血による感染が多かったのですが、現在は刺青や覚醒剤などの注射の回し打ち、針刺し事故によるもが主です。
現在は飲み薬でウイルス駆除ができ、当院ではここ数年、100%の患者さんがウイルス駆除に成功しています。治療期間は多くの方が12週間で、肝炎治療助成制度があり申請すれば3万円程度で治療できます。
B型肝炎ウイルス
血液や体液(唾液、精液など)を介して感染し、過去には予防接種や医療行為による感染があったと推定されています。幼少期の感染や、成人の性感染症としての感染は慢性化します。ウイルスは一度感染すると完全に排除することは難しいですが、予防接種で感染を予防でき、感染した場合には注射や飲み薬での抗ウイルス療法を行います。
肝癌
2019年の統計では、肝癌ががん死亡数の5番目です。治療法として手術、局所療法(針を刺して焼く治療)、抗がん剤、放射線治療などがあります。当院では飲み薬や点滴での抗がん剤治療を行なっております。
手術や放射線治療が必要と判断した患者さんには、連携先の医療機関をご紹介させて頂いております。