2021年12月04日
利根中央病院
小児科医師
大谷 祐介
日ごとに寒さも増し、身にしみる季節となりました。冬にはさまざまな感染症が流行しやすく、家族内や集団保育で感染が広がってしまうこともしばしばみられます。
今回、小児の感染性胃腸炎(主にウイルス性胃腸炎)をテーマとして、その特徴や受診のタイミング、家庭でできる対応、予防などについてお話しします。
胃腸炎とは
胃、小腸、大腸において炎症が生じている状態のことを胃腸炎といい、その大半は感染性の胃腸炎です。主な原因はウイルス(全体の約70%)であり、ロタウイルスやノロウイルスが多いです。それに続き、細菌(全体の10~20%)なども原因となります。
感染の経路は、病原体が付着した手で口に触れることによる感染(接触感染)や、汚染された食品や水などを口に入れることによる感染(経口感染)があります。
1年中発症することがありますが、特に冬場の10月~3月頃に感染者が増える傾向にあります。
胃腸炎の症状
主な症状は、吐き気、嘔吐、下痢、発熱、腹痛などです。小児は生理的に嘔吐をしやすく、脱水や低血糖にもなりやすいため注意が必要です。また、乳児ではけいれんを起こすこともあります。
一般的に、胃腸炎で嘔吐を繰り返すのははじめの半日~1日程度であることがほとんどで、その後は自然と軽快に向かうことが多いです。一方、下痢はしばらく続くことがあります。
胃腸炎の治療
残念ながら、胃腸炎の症状をすぐに改善させられる特効薬はありません。症状がよくなるまでの間に脱水にならないように、少しずつでも水分補給をすることが大切です。
病院では整腸剤や吐き気止めなどの薬を使用した対症療法を行うことが多く、症状の強い患者様には点滴加療を行います。
症状が出たときの対応
嘔吐の回数が多く、水分摂取ができずにおしっこが明らかに減っているとき、顔色が悪いときや元気がなくぐったりしているときには、早めに受診することをお勧めします。ただし、先にも述べたように胃腸炎の嘔吐症状ははじめの半日~1日程度がピークなので、水分が摂れるようであればまずは自宅で様子をみてもよいでしょう。
水分摂取については、失われた水分や電解質(ナトリウム、カリウムなど)を補うために、水やお茶よりもOS-1などの経口補水液を飲ませる方がよりよいです。吐き気が強い場合は、一気に飲むとまた吐いてしまうため、スプーン程度の量をゆっくりと一口ずつ時間を空けながら飲ませてあげましょう。
嘔吐や下痢の処理方法
ウイルス性胃腸炎の多くは感染力が強く、人から人へ感染しやすいため、吐物や下痢の始末にも細心の注意が必要となります。
オムツを交換する際には使い捨てのゴム手袋などを使い、ポリ袋などに入れて捨てましょう。タオルも共用しないようにし、衣類が汚れた際には、次亜塩素酸ナトリウム(家庭用塩素系漂白剤)でつけおき消毒した後に、他の衣類と分けて洗濯しましょう。次亜塩素酸ナトリウムの希釈液の作り方については図1、2をご参照ください。
また、症状がよくなっても便からのウイルスの排泄は数週間続くため、処理には注意してください。
胃腸炎の予防
予防には、手指衛生が最も重要です。新型コロナウイルス対策として、みなさんもアルコール消毒の習慣がついていると思いますが、ノロウイルスなどの原因ウイルスはアルコール消毒があまり有効でないことが知られています。そのため、流水と石けんによる30秒以上の手洗いが推奨されます。
また、生の肉や魚、貝などに付着した病原体を口にすることでも感染するため、十分に加熱してから食べるのがよいでしょう。
ロタウイルスワクチンを受けましょう
乳幼児では、ロタウイルス性胃腸炎の症状がしばしば重篤化します。脱水がひどくなると点滴や入院が必要となることがあり、最悪の場合死に至る例もあります。従来は、年間3万人~8万人ほどの子どもたちがロタウイルス性胃腸炎で入院し、5歳未満の急性胃腸炎入院例の4~5割を占めていました。
ロタウイルスワクチン接種により、そのような重症化を防ぐことが期待できます。実際に、2011年11月にワクチンが任意接種として導入されて以降、ロタウイルス性胃腸炎で入院する子どもたちは著明に減少しており、たくさんの子どもたちが救われています(図3)。
2020年10月より、ロタウイルスワクチンが定期接種化されました。接種できる月齢のお子さんにはぜひ接種させてあげましょう。