2021年04月01日
利根中央病院
整形外科部長(副科長)
細川 高史
日常生活で心配になることが多い上肢の痛みやしびれ。
先月号に引き続き、昨年当院で行われた医療講演懇談会(11月7日)でお話した内容からピックアップして説明します。
神経障害性疼痛
手根管症候群 = 手首での“正中神経の圧迫”による神経障害
「親指、人差し指、中指がしびれる。しびれが強くて目がさめる。物をつまみにくくなってきた。」
正中神経と、指を曲げる9本のスジ(親指は1本、他の指は2本ずつ)は手根管といわれる手首のほぼ真ん中を通る狭いトンネルを通過しています。加齢とともに手根管の屋根となる靭帯が肥厚したり、手の使い過ぎでスジのまわりが炎症をおこし腫れると、神経が圧迫をうけて神経障害がおこります。親指から薬指の半分までのしびれが主な症状です。小指にはしびれはおきません。また進行すると母指球がへこんできて、つまむ力が落ちてしまいます。診断のために、神経を電気で刺激する検査(神経伝導速度)をおこなうことがあります。特に母指球がへこんできたら手術を積極的にすすめます。
- 治療:1安静
- 手の使用を控えます。寝るときに手首を固定します。ビタミンB12を内服します。
- 治療:2ステロイド注射
- 治療:3手術
- 神経を圧迫する靭帯を切離します。30分ほどの手術です。入院または日帰りの伝達麻酔でおこなうことが多いです。術後は1週間だけ手首を固定します。
肘部管症候群 = 肘内側での“尺骨神経の圧迫”による神経障害
「小指がしびれる。肘の内側が痛い。手がやせてきて、力が入らない。」
尺骨神経は肘の内側(ぶつけるとビーンとひびくところ)を通っています。加齢や肘の使用により尺骨神経の上にあるオズボーンバンドという靱帯組織が神経を圧迫することで症状が出ます。小指と薬指半分のしびれに始まり、進行すると“鷲手”や“かぎ爪指変形”という手の筋肉がやせた特徴的な手の形になります。診断や治療方法は手根管症候群に類似しています。
頸椎由来の上肢神経障害 = 頸椎椎間板ヘルニア、頸椎症など
「手だけでなく腕もしびれる。肩甲骨まわりが痛い。上をむくと、腕に痛みが走る。」
上肢へいく神経は、脳から脊髄へ、そして頸椎(くびの骨)の間から出て上肢に向かいます。この頸椎部分で腕にいく神経が圧迫されると、上肢痛、上肢のしびれが出ます。神経を圧迫する原因として、椎間板ヘルニアや骨棘(加齢により変形した骨のでっぱり)が一般的です。上をむくと頸椎の配列の変化により神経の通り道が狭くなるため、疼痛が誘発されることがあります。肩甲骨周囲も頸椎由来の神経領域なので、そこに痛みが出ることがあります。進行すれば力が入らなくなります。何番目の神経がどのあたりの痛みを生じるかはほぼ決まっておりデルマトームといわれています。
- 治療:1
- 首に負担をかけたり、上を向かないように気をつけます。首や肩まわりの筋トレ、緊張緩和のリハビリテーションが有効なことがあります。痛みがおさまるまで神経痛を抑える鎮痛薬(リリカ、プレガバリン、タリージェ、トラムセット、トアラセット、サインバルタなど)を内服します。
- 治療:2ブロック注射
- 神経周囲に麻酔薬やステロイドを注射します。
- 治療:3手術
- 神経を圧迫する要因(骨、靱帯、ヘルニア)を全身麻酔による手術でとりのぞきます。ただし適応は症状に応じて専門の医師により決定されます。治療2、3については投薬等にて症状が改善しない場合は専門の医師に紹介させていただいております。整形外科に受診してご相談ください。
上肢における侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛は他にもたくさんの原因がありますが、代表的なものについて解説いたしました。
(画像出典 日本手外科学会)