2019年11月01日
利根中央病院
薬剤師
武井 智史
現在、国民の2人に1人が癌にかかる時代となっています。癌の治療は外科的手術、従来の抗癌薬療法、放射線療法が基本的な治療とされています。こうした中、近年「癌免疫療法」が新たな治療の選択肢として注目を集めています。今回は、癌免疫療法について簡単にお話させていただきます。
癌と免疫
今回のお話をする上で最初に説明させていただきたいのが、「癌」と「免疫」の関係です。癌の発生は人間の遺伝子が何かしらの影響で傷ついてしまう、変異を起こしてしまう事で起こると考えられています。どんなに健康な人でも、癌細胞は1日に3000個以上発生しているとも言われています。
しかし、全ての人が癌を発生するわけではありません。人間には癌細胞が発生しても癌が発症しないような仕組みがもともと備わっています。その中の一つとして、免疫が癌細胞の排除に関与している事が分かっています。
癌化した細胞を免疫細胞が排除することによって癌の発症を抑制していますが、中には免疫から見つからない仕組みや免疫の働きを抑制させるような仕組みを持った癌細胞が出来てしまうことがあります。こうして、徐々に免疫から逃れ、最終的に癌として発症してしまうメカニズムが考えられています。
癌免疫療法
このように、研究で癌と免疫の関係が徐々に明らかになってきたことで、免疫を賦活(活性化)したり、癌に対する感受性を高めたりと患者さん自身の免疫を使用した治療法が考えられました。自身の免疫を用いて治療する癌治療の総称が「癌免疫療法」です。
薬剤について
代表的な薬剤は「オプジーポ®」という薬剤です(写真)。
世界で初めて保険収載された癌免疫療法薬で、昨年のノーベル賞を受賞された京都大学の本庶佑先生が開発に大きくご尽力された薬剤です。メディアでも大きく取り上げられたので覚えている方も多いと思います。
また、近年では「キムリア®」という薬剤もよくニュースで見かけると思います。こちらは、1回の治療に約3,350万円かかるといった値段の面で注目されました。この他にも数種類の薬剤が現在保険適応とされています。
当院では
「全ての癌に使えますか?」という質問をいただきますが、残念ながら全ての癌に保険適応で使えるわけではありません。薬剤によって適応の癌がそれぞれ異なっており、当院では一部の肺癌や胃癌に対してオプジーポ®やそれに類似した薬剤を使用しております。現在も数多くの臨床試験が実施されており、今後保険適応となる癌種は増えていくと思われます。
効果の面は癌種や病態によって異なるので、一概に高い効果があるとは言えませんが数年間、癌の増大が抑えられている方もいらっしゃいます。
従来の抗癌薬よりも少ない副作用
特徴的なのが副作用です。自身の免疫を駆使して治療するため従来の抗癌薬よりも副作用は少ないと報告されています。実際に嘔気・嘔吐や全身倦怠感など従来の抗癌薬に多くみられた副作用はほとんどありません。しかし、頻度は低いものの、発現すると重篤になってしまう副作用も報告されています。早期に副作用が発見できれば良いのですが、放っておくと命に関わる事もありますので、もし治療を受けている方で何かいつもと体の様子が違うという事がありましたら主治医に一声かけていただきますようお願い致します。(ここでお話ししました副作用は、キムリア®以外の薬剤に関しての事です。キムリア®に関しては頻度が高い副作用がありますので上記に当てはまらない事をご注意ください。)
癌と免疫の関係はまだ解明されていない部分も多く、現在使用されている薬剤も解明されている免疫の一部を応用したものです。今後もこの分野の研究が進み、新たな抗癌薬が増えてくると思います。当院としても、新しい知識を入れながら、癌に苦しんでいる方のお手伝いをさせて頂ければと考えております。
参考文献
日本臨床腫瘍学会編『がん免疫療法ガイドライン第2版』(2019、金原出版)