人はなぜ眠るのか――眠りが守る脳と体――

2017年12月01日

利根中央病院 精神科医師
渡會 昭夫

人はなぜ人生の三分の一を眠って過ごすのでしょうか。24時間活動出来たらと思う方はいませんか?無駄に見える睡眠には大切な役割があることが分かってきました。
眠っている間に昼間学習したことが整理整頓されて脳にしまい込まれ、次の経験に生かされます。睡眠時間を削った受験勉強は実は有効ではありません。眠っている間に認知症の原因物質ベータアミロイドが掃除されることも分かってきました。深い良質な睡眠は糖尿病の改善にも寄与するといわれています。

体内時計と睡眠

脳の中には体内時計があって睡眠と覚醒の周期を作っているといわれています。それはまずショウジョウバエで発見され、広く生き物に存在することが分かってきました。生まれてすぐの赤ちゃんは体内時計が未発達なために、夜昼区別がありません。次第にお昼寝が減って、成人期には昼間は活動、夜は眠るようになります。脳が年を取ると体内時計は緩み始め、夜間の睡眠は浅く短くなり、昼寝が出やすくなります。

体内時計が作る眠りのリズム

体内時計の働きで朝日を浴びてから13~15時間経つと深部体温が下降し始め、メラトニンが上昇をはじめます。
メラトニンが上昇すると眠くなり、減少すると目が覚めます。このリズムが崩れてしまうと、体内時計が乱れ、不眠の原因となります。

より良い睡眠のために

光の利用
体内時計の最大の強化因子は太陽の光と言われています。太陽の光の届かないところで気ままに過ごしたところ、1日に1時間ずつ寝る時刻が遅くなり、最後には昼夜逆転になったという実験があります。朝決まった時間に起きてお部屋を明るくすること。そこから体内時計が動き始めます。逆に夜中にスマホでゲームは体内時計が昼間と勘違いしてしまいます。スマホやテレビ、パソコンの青色光線はまぶしさの原因ですが、エネルギー量が高く、覚醒作用が強いのです。 最近は配色機能が付いたLED照明器具もでています。夜はさくら色ないし電球色がおすすめです。
体温と睡眠
体温と睡眠の関係も分かってきました。体温が下がっていくときに眠りに入ります。寝る前に軽い運動をしたり、ぬるめのお風呂に入ると、心身のリラックスが図れるばかりでなく、体温が少し上昇し、その分布団に入ってから体温が下がりやすくなり、寝つきが良くなります。ただし、暑いお風呂や強過ぎる運動は却って興奮して眠れません。寝ている間は冬眠のようなもので、体温を下げて深い眠りに入ります。夏の夜の熱帯夜は体温が下がりにくく、寝苦しい夜になります。また、電気毛布を熱くし過ぎると身体が火照って眠れません。寝付いた後は自動的にスイッチが切れる電気毛布もありますが、布団を十分に温めて電源を切って寝る事も良いでしょう。
音と睡眠
テンポの速い行進曲は覚醒、ゆったりとした宮古島の寄せては返すさざ波のリズムは、心をリラックスさせて眠りをもたらす。子守歌には根拠があるのです。
昼寝と睡眠
昔、昼寝は夜眠れなくなるのでしない方がよいといわれていました。今は、眠気を我慢して起きていると、覚醒水準が下がってしまって、昼夜のメリハリが薄まるので、積極的に昼寝をして眠気を取ってしまったほうが良いといわれています。実際昼寝の部屋を作っている企業もあります。その方が午後の仕事の生産性が上がるのだそうです。ただし、昼寝するなら午後の三時まで、三十分以内と睡眠学会は提唱しています。
お酒とコーヒー
寝酒は確かに寝付いても、夜中に覚めませんか?アルコールが脳から抜けて行く時に、リバウンドが起きて脳が覚めてしまうのです。アルコールによる睡眠は質が悪いといわれています。コーヒーは3~4杯くらいまでなら健康に良いという話があります。ただし、午後の三時までにしましょう。
薬と睡眠
睡眠薬は癖になる?癖になります。特に作用の強いほど、作用時間が短いほどリスクは高くなります。六か月以上飲み続ければ、依存性は形成されます。急に止めると最悪の場合、一睡もできない。だからまた飲み続ける。これは禁断症状、リバウンド等と呼ばれている現象です。でも心配し過ぎないで下さい。我慢していると一週間くらいでおさまります。
睡眠薬を飲み続けると認知症になる?ある種の安定剤、睡眠薬を六か月以上飲み続けると、認知症のリスクが高まったという最近のイギリスの大規模調査研究があります。ただし、たばこのリスクと比べればはるかに小さいものです。睡眠薬は最小限を上手に利用するものです。同時に自分でできる工夫を大切にしましょう。

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