エコー(超音波)を用いた効果的な整形外科診療

2017年03月01日

利根中央病院 整形外科部長
須藤 執道

整形外科の診療で使用される代表的な画像機器といえば、Ⅹ線(レントゲン)・CT・MRI の3つです。この3つは皆さんもよく御存知の機器だと思います。しかし近年、腹部などの内臓検査に利用されてきたエコー(超音波)の高性能化、小型化が進み、整形外科の分野でもしばしば使用されるようになってきました。今回は、エコーを用いた整形外科診療について紹介します。

~エコーの利点~

エコーの利点は、X線には写らない軟部組織(神経や筋肉、血管など)を、診察室でエコーを当てるだけですぐに観察できることです。さらにはⅩ線やCTでは不可能である、関節や筋肉を動かしながらの観察が可能であるため、状態を詳細に見ることができます。
また、今までは盲目的に行っていた注射の針の先端をエコーで確認できるので、より確実に狙った部位への注射が可能です。このような利点があるため、次に述べる整形外科診療が可能となりました。

①麻酔への応用(神経ブロック)

従来は肩や肘の脱臼および上肢の骨折に対し、無麻酔もしくは局所麻酔で脱臼の整復や骨折の整復を行ってきました。しかし、整復時の強い痛みを取り去ることはできないため、痛みにより患者さんの体中に力が入ってしまい、整復が困難な場合がありました。このような場合に、エコーを用いて直接神経を見ながら麻酔(神経ブロック)を行うことにより、無痛状態もしく我慢できる程度にまで痛みを軽減することが可能となり、脱臼や骨折の整復が容易になりました。
図1・2は、患者さんに頚(くび)の付け根で麻酔(神経ブロック)を行っている写真(図1)とそのエコー画像(図2)です。
患者さんの状態(コントロールが不良の糖尿病がある、血がサラサラになる薬を飲んでいるなど)によっては、神経ブロックができないこともあります。

  • 図1
  • 図2

②筋膜注射(筋膜リリース)

エコーを見ながら、筋肉を包んでいる膜や筋肉と筋肉の間にある膜(筋膜といいます)に注射をして、痛みを和らげる治療法です。最近では、リハビリテーションの分野でも注目されている手技です。次に挙げる2つの疾患がよい適応となる代表的な疾患です。

(a)寝ちがえ

朝起きたら首が痛くて回せないといったことは、誰しもが一度は経験したことがあるのではないでしょうか。もちろん、特に治療しなくても2~3週間もすれば自然に治癒することが多いのですが、首の圧痛部位(押して痛むところ)にエコーを当て、筋膜に液体(局所麻酔薬を含んだ生理食塩水)を注入することによって痛みが軽減されます。図3は、実際に筋膜注射を行った後のエコー画像です。
患者さんによっては、注射後すぐに首が回せるようになる方もいます。

図3
図3

(b)ギックリ腰(急性腰痛症)

「魔女の一撃」とも言われるギックリ腰ですが、こちらも筋膜注射(筋膜リリース)のよい適応です。こちらも寝ちがえの時と同様に、腰の圧痛部位の筋膜に注射をすると痛みが軽減されます。当院で経験した症例では、体動困難のために救急車で運ばれてきた患者さんが、注射後にスタスタ歩いて帰っていったという例もあります。
ただ、高齢の患者さんがギックリ腰を起こした場合には腰椎(腰の骨)の骨折であることも多いので、骨折の場合にはそちらの治療(コルセットなど)を優先することになります。腰痛の原因が腰椎椎間板ヘルニアの場合なども同様です。このような患者さんには、注射前にX線やMRIで腰痛の原因となる他の疾患がないかどうかを確認します。
以上が筋膜注射の概要ですが、最近では肩関節周囲炎(五十肩)の患者さんにも行うことがあります。
また、神経ブロックの時と同じで患者さんの状態によっては筋膜注射ができないこともあります。

整形外科外来では

利根中央病院の整形外科では従来の診療に加え、エコーを用いた診療にも積極的に取り組んでいます。
患者さんの痛みを少しでも軽減できるよう、これからも貢献していきたいと思います。

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