2015年05月01日
利根中央病院
総合診療科医長
鈴木諭
昨年四月に総合診療科を新規開設、深澤院長補佐と診療を開始して早一年が経ちました。当院における総合診療科のあり方を試行錯誤しながら歩いてきた一年間でしたが、徐々にその形と役割が作られてきたかなと、ここ最近感じてきています。この四月からはスタッフ二名後期研修医二名の計四名の医師を迎え、新たな診療体制のもと日々外来や病棟の診療を行っています。
総合診療科って?
総合診療科は一般の方や医療従事者にもまだ認識されていない専門科ではありますが、諸外国では確立された分野であり、医学が専門分化されすぎた昨今ではその必要性は高まっています。特に外来や救急など診断がついていない状況や、僻地等の専門医不足を含めた医師不足の地域では、さらにその重要性は高まると考えられています。
高齢化率が30%を超えつつある沼田医療圏では、他地域と比較しても複数の専門科に受診している高齢者の増加に加え、医学的問題以外にも精神的問題や社会的問題を同時に抱えた方も増えつつあります。このような問題にも総合診療科として関わることで、より良い医療を提供していけるのではないかと考えています。
午後の一般外来復活
内科診療においては、当院における専門内科がより専門性を発揮しやすいように、専門内科医の外来・入院診療の負担の軽減に努めています。内科初診外来及び内科救急担当は、以前は呼吸器内科や腎臓内科の医師が担当しておりました。その為、専門性の高い処置の件数を制限せざるを得なかったり、病棟診療に時間が取れなかったりと、専門医の勤務を圧迫し、疲弊につながっていたかもしれません。
四月からは土曜平日午前中の一般外来と日中の内科系救急車対応を主に総合診療科が担当するとともに、新たに平日午後の一般外来も開設し担当しています。
総合診療科が診療を引き受けることで、専門医の先生がより専門性を発揮しやすい状況を作り出し、患者・地域にはもちろん、専門医や看護師、病院にとっても、メリットがあると考えられています。
入院診療も担当
また、内科病棟では、主に三階病棟を中心に各専門科と相談しながら入院診療を行っています。当院に常勤してない専門内科領域の疾患に関しては、総合診療科が主体的に診療に関わっています。
四月からは総合診療科所属医師が増えたことにより、入院診療はチームで関わりを持ち対応しています。まだ症例は多くはありませんが、重症疾患に関しても回診検討(ディスカッション)や複数の担当医を立てて、チームで診ることを意識しています。どの専門科にも属さない疾患や、複数の専門科にまたがる複雑な症例では、各専門科の意見を調整したり必要な手技を依頼したりしながら診療をしています。
各専門科があることによって医療機関の力は上がってくると思います。総合診療科は専門科がないと成り立たない科であるとともに、専門科を支えられる科でもあります。今後も当院での役割を確認し各専門科との中で診療を行っていこうと考えています。
教育及び研修に力
医学教育、研修も専門性の高い重要な分野だと考えています。当院は厚生労働省の臨床研修指定病院として毎年医学部を卒業した初期研修医の先生方を受け入れてきています。今年度も新たに一名の初期研修医を受け入れました。また、群馬大学からも、大学外臨床実習の一環として春先から初夏にかけて二週間毎に医学部五~六年生一名が実習に来ています。教育力があるところに人が集まるという考えのもとに教育内容の整備を行い、日常的に入院患者の回診や症例検討会、外来診療の振り返り等を行っています。
その他、院外からの講師を招き、講演等も行っています。受診、入院される皆様には診療の場面においてご協力をお願いする場面が出てくることもあると思いますが、総合診療科始めとした当院の医学教育、研修の役割をご理解いただけたらと思います。若い医師が沼田医療圏で研修をすることで、当院内が活性化されるだけでなく地域全体が活性化されることにつながれば良いなと考えています。
地域の求めに応えて
最後に、私は沼田に来る前の十年間は都市部で総合診療、家庭医療を行ってきました。家庭医療は総合診療科よりも更に、受診された方々に対して、身近な立場で、医学的な問題だけでない様々な問題に対応する事が求められます。そして、病院や診療所で待ち対応する医療保健活動だけではなく、在宅や地域に医師自ら出向き対応する医療保健活動も行っています。
昨年度は、市内小学校にて「命の大切さ」についての朝礼講話を行う機会をいただきました。先日は当院入退院後在宅での看取りを希望された方を、在宅で看取りを行いました。今後も沼田医療圏で求められる形での在宅医療、地域医療を総合診療科として考えていけたらと思っています。よろしくお願いいたします。