2013年07月01日
利根中央病院
精神科医師
藤平 和吉
「発達障害」は子どもたちの話題として学校教育現場から広まった概念でした。落ち着きのない子、学校に行けない子、集団に溶け込めない子。そしてそれは、大人の世界にもありそうだ……というのが今回の話題です。
「発達障害」とは?
発達障害は<生まれつき>の<脳の働き方の個性>のようなものです。“発達”という表現からは親の育て方や家庭環境など後天的なイメージを連想しますが、原則的には先天的な要素です。その意味からは、ご本人の努力不足でもなければご両親の育て方の問題でもありません。さまざまな研究から、例えば発達障害のひとつである「自閉スペクトラム症」は、一般人口の12.5%に見られるとの報告があります。(Kamio et al.,2013)実は身近な話題のひとつなのです。
大人の発達障害は「増えた」のか?
<脳の働き方の個性>が子どもの頃からわかりやすく表れた場合は早期からの支援が可能です。ところが軽症例や知的能力がある程度高い人の場合、幼少期には気付かれにくいケースが多々あります。それが中学生や高校生、あるいは人付き合いが深まる大人社会に出て初めて、その特性に悩むようになります。さまざまなストレスに敏感になりやすいのも発達障害の特徴です。社会構造の複雑化も大人の発達障害を目立ちやすくしている要因のひとつかもしれません。
大人の発達障害が本当に増加しているのかについては、様々な議論があります。本来は生物学的(先天的)なものですから数十年で急激に増えることは考えにくく、医学知識の普及で「発見されるようになっただけ」というのが一般的な考え方です。その一方で「環境ホルモンなどの影響で自閉症が増えている」とする意見もあります。
発達障害の「種類」
発達障害にはいくつかのタイプがあります。大まかな分類は図1のとおりです。アスペルガー症候群などを含む自閉症スペクトラム障害では「他人の気持ちが読めず上手に付き合えない」「こだわりが強く些細なことに敏感になりやすい」などの症状で悩む場合があります。注意欠陥・多動性障害では「落ち着きがない」「忘れ物が多い」「ぼんやりしていて上司からいつも注意される」などで不自由を感じる場合があります。
共通して言えることは、標準的な発達(定型発達)の人たちに比べると、日常の様々な場面で「生きにくさ」を感じやすい点です。その意味では確かに「障害」であり、適切な支援とともに周囲の人たちの理解や協力が必要です。
その一方で「障害とばかりはいえないのではないか?」という、少し違った見方もあります。
アイシュタインは発達障害だった?
脳が独特に働くということは、悪いことばかりではありません。人の気持ちが読みづらいという特性は「独自性」につながります。こだわりが強いという特性は「最後まで諦めず粘り強くやり遂げる」という強みにもなります。一見「障害」と思われる特性も、“社会的に好ましい形”で発揮されれば、芸術でもスポーツでも学問の分野でも、定型発達者には真似できないような業績を残したりします。歴史に名を遺した偉人たちの多くが「発達障害だったかもしれない」といわれる所以(ゆえん)です。
「自分」を知り「長所を生かす」
発達障害の可能性が気になる方は、行政機関の窓口(保健福祉事務所や発達障害者支援センターなど)で相談したり、日常生活が困難なほどの強い「困り感」がある場合は医療機関への受診も可能です。
とはいえ、発達障害自体は現代医学をもってしても根幹治療することはかないません。いや実は、「治療」という発想から一旦離れないといけないのかもしれません。何となればその<脳の働き方の個性>こそが、その人らしさであり、その人そのものだからです。
「治す・取り去る・解決する」という発想から、自分の特徴と「どう付き合か」「どう生かしていくか」という発想に切り替える視点もありそうです。
私がお付き合いさせていただいている患者さんの中には、<脳の働き方の個性>を「自分の持ち味」として存分に発揮している方が何人もおられます。
いろいろな個性が、みんなで仲良く協力し合って共存できる社会……利根沼田がそんな場所であって欲しいと心から思います。