よりよい医療のための術中迅速病理診断

2013年03月01日

利根中央病院
病理診断科部長
大野 順弘

当院で外科手術を行う際の特色として、泌尿器科、産婦人科、整形外科、脳外科などの外科系の各科の常勤の医師が勤務しているため、幅広い疾患・状況に対応しています。また、病理診断の専門医である病理医が常勤医師として在籍していることから、手術中に癌の取り残しの有無等を調べる「術中迅速病理診断」ができます。
今回はこの術中迅速病理診断についてお話をします。

術中病理診断の概要

術中迅速病理診断とは手術中に、病変が良性か悪性かの判断や切除する範囲の決定などを目的として行われる病理組織診断や細胞診断のことを指します。
手術中に病理組織学的な診断が必要となった部分から一センチ四方程度の小さな組織を採取して、ゼリー状の基剤を満たした薄い型枠に沈めた状態で液体窒素により急速に凍結させます。その後、冷凍庫の中で薄いスライスを作る専用の装置の中で、5~10μm前後の厚さのスライスをつくり、スライドガラスに貼り付けます。さらにホルマリンで固定し、薬液や染色液に順次漬けていくことにより、標本が作製されます。出来上がった標本を病理医が顕微鏡で観察して、その検体の中に癌細胞が見られるか、その場合には癌の種類等の診断をして、結果を手術中の医師に電話で伝えます。この一連の作業が10~20分ほどの短い時間で行われます。

適切な手術のために

迅速診断の利点は、診断結果に基づいて切除する範囲を判断し、適切な手術の方法の選択ができる点です。
切除しようとする病変部について、顕微鏡での観察を加えた正確な情報が得られることにより、癌などの病巣の採り残しや、過剰な切除を防ぐことができます。乳癌の外科手術で主流となっている乳房温存切除の手術に代表されるとおり、必要最小限の切除で、治療目的に沿った十分な治療効果のある手術が受けられることになります。
しかし、短時間で作成できる標本は多くても3~4個までで、手術中に検討できる範囲も限られます。病理医はこの難しい条件の下で診断を下す必要があります。

検査技師とのチームプレーが大切

標本の作製や細胞診断の際のスクリーニング〈診断に適する細胞の選び出し〉は病理の検査技師が行います。迅速病理診断の際の、短時間での質の高い標本の作製、細胞診の標本の適切なスクリーニング、 それにもとづく正確な病理診断のためには、優秀な検査技師と病理医のチームプレーが必要不可欠です。病理診断科では2名の検査技師がこの作業に携わっていますが、技能を継承する若い世代の検査技師を養成することが急務となっています。

画像伝送による迅速な診断

地方での病理医の不足を補うために、放射線科の診断では当院でも行われているような画像伝送によって病理診断を行なう、「テレパソロジー」が試みられています。しかし病理標本の場合は、一センチ四方の小さな標本でも顕微鏡の画像としては巨大なデータ量となるため、リアルタイムの画像伝送と観察には高価な機器と専用に近い回線が必要となります。
常勤の病理医を雇用することが困難な地方の中小病院では、専用機器の維持や管理のコストも重荷となります。また、伝送された画像を診断するには、実際の顕微鏡での病理診断以上に大きな負担となるため、病理医の仕事をむしろ増やしてしまうことになります。モデル事業として大学病院と地方の公的病院の間の試験的な運用が主体となっており、一般に広く普及するまでには至っていません。

生活習慣改善につながる解剖にご理解を

病理医の重要な業務の一つに、病院で亡くなられた患者様について、最終的な死因や診断と治療が適切であったかどうかを検証するための病理解剖があります。その結果により故人の教訓を学びとり、残された遺族の生活習慣の改善、ひいては健康寿命を延ばすことに繋がるのです。
医師の初期研修が行える臨床研修病院であるためには、病理解剖の結果を検証する臨床病理検討会を定期的に開催していることが必要です。また、内科専門医が養成できる内科学会の教育病院の資格を維持するためには、その病院で亡くなられた患者様について一年間に十例以上の病理解剖が行われていることが必要です。
当院は臨床研修病院であり、内科学会の教育病院にもなっているため、患者様が亡くなられた場合に、主治医からご遺族に病理解剖をお願いすることがあります。その際、事情が許す限り、ご協力くださいますようお願いいたします。
この病理解剖においても、資格のある病理医と検査技師のチームプレーが必要です。利根中央病院にとって必須の課題となっている臨床各科の医師の養成と招聘が可能となる病院の基盤を維持するために、次の世代を担う若手の病理医と検査技師の採用と養成は、病院の将来を左右する重要な課題となっています。
組合員皆様のご理解とご協力をぜひお願いいたします。

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