2012年08月01日
利根中央病院
院長補佐・内科
深沢 尚伊
昨年三月の東京電力福島第一原発事故で、大量の放射性物質が放出されました。事故後の風向きや雨の影響から、沼田周辺での放射線量が群馬県内の他の地域と比較して多くなり、皆さん心配しておられることと思います。
地球が誕生して以来、生物は大地や空から放射線を、多少ではありますが浴びてきました。人類も長い歴史の中で修復能力を身につけていますので、少しでも放射線を受けると危ないなどと考える必要はないのですが、止むを得ずあびる放射線以外、可能な限り少なく抑えた方が良いということは、専門家の意見が一致しているところです 。
放射能と放射線
地球もそこに住んでいる生物も、様々な原子が集まってできていますが、その中には別の原子に変化しやすい不安定な原子というものが知られています。
そして、変化する際に物質が外に対して放出するのが放射線と言われるものです。α(アルファ)線、β(ベータ)線、γ(ガンマ)線など何種類かのものがありますが、このような変化しやすい原子でできているのが「放射性物質」であり、放射線を出す能力を「放射能」といいます。
外部被爆と内部被曝
どの種類のものであっても、放射線が、体の外から飛んできて、体の中を通り抜けていく場合を外部被曝といい、体の中に放射性物質が残り、中から放射線を出し続けることによる被曝を内部被曝といいます。
体の内部にとどまった放射性物質が発する放射線のうち、α線とβ線は、ごく短い距離でエネルギーを使い果たしますからそれだけ影響も大きいのです。内部被曝は、少量であっても同じ場所にとどまり反復して細胞を攻撃するので、放射線障害の主要な原因になります。外部被曝が問題になるのは、原発労働者や核兵器被害者にほとんど限られるものです。
内部被曝を避けるために
内部被ばくを避けるためには体の中に放射性物質を取り込まないことが大切です。
放射性物質が体の中に入ってくる経路は、主に二種類あります。呼吸をする時に、空気と一緒に入り込んできて喉から気管支・肺に行く経路。もう一つは、食べ物と一緒に胃腸を通して体に入って行く経路です。
沼田周辺は、原発事故があった時の天候の影響で、群馬県のほかの地域に比べて、放射性物質が多く降ったようです。その時の放射性物質は、地表から一〇センチ以内の地面または、それらを含んだ土や枯葉などが溜まった場所(ホットスポット)に残っている可能性があります。乾燥して風が吹いた時など、再度空気中に舞い上がることもあります。
これらに関しては、「新たな放出がない事」を前提に、放射性物質の濃度の高い場所を見つけ出し、適切に処理することが重要です。
もう一つの、食物などを通して口から入ってくるものへの対応が、日常的には大切です。お店で売っているものに放射性物質がどの程度含まれているかを知るのは、私たちが一つ一つ計測して確認することは現実的でありません。放射性物質の含まれる量を表示させることが必要です。家庭菜園などで作った野菜の放射線測定は行政がサービスで行っていますので利用するのが良いでしょう。また調理法の工夫で放射性物質を少なくすることもできるので、その方法を学ぶ事も大切です。医療生協の班会や支部毎で学習会などを企画するのも良いでしょう。
体内の放射性物質を排除するために
人間の体は新陳代謝が活発になされていて、古い細胞や成分は排出されて新しい物質に置き換わっていきます。放射性物質を早く追い出すことも可能なのです。安全な食品をしっかり取ることが大切です。半減期が長いということは、放射線を出す量も少しずつだということです。落ち着いて、食生活を見直す機会としていきましょう。
子供たちに残せる地球・社会を
原発事故のその後を見てもわかるように、科学者の力を以てしても、人間は事故をすぐに解決できる手段を持ち合わせてはいません。原発事故は、これからも起こりうることです。これ以上、放射能に汚染された地球を残さないためにも、原発の必要のない社会をどのようにして作っていくのか、真剣に考えていきましょう。