鏡視下手術で負担の少ない治療

2012年07月01日

利根中央病院
外科部長
郡 隆之

近年、小さな穴からテレビカメラ等の器械を入れて、おなかや胸の中で手術を行う鏡視下手術が広まっています。傷が小さく回復が早いメリットがあるため、当院外科でも一〇年以上前から行っており、年々手術対象を広げています。今回は、当院で行っている主な鏡視下手術をご紹介いたします。

鏡視下手術とは?

従来の手術では、胸やお腹を一〇~二〇cm程切り、体の中に手が入るようにして手術を行っていました。鏡視下手術では、体に〇・五から一・五cmほどの穴を何箇所か開けて手術します。穴の一つから体の中に医療用のカメラを入れてモニターに内臓を映し、別の穴からマジックハンドのような手術器械を入れてモニターを見ながら手術を行います(写真1)。体の外から内臓を直接見たり触ったりせずに手術を行い、手術で取った内臓は穴を広げて体の外に取り出します。取り出す内臓が小さいときは手術で開けた穴から、大きいときは五cm程度に穴を広げます。また、胃や大腸のように腸を縫い合わせなければならないときも、五cm程度の傷が必要になります。

体の負担が少なく回復も早い

傷が小さいことと内臓を空気にさらす機会が少ないことから、手術による体の負担や傷の痛みが減り、回復が早いメリットがあります。また、傷が目立たないため美容的にも優れています(写真2)。
当地域は高齢化が進んでいます。当院でも癌の手術は六〇歳以上が全体の八〇%程度になり、七〇歳以上が全体の半分を占めます。一般的に体の負担の大きな手術は入院が長期化したり体力を落とす危険が高まります。特に高齢者では一度体力を落とすと回復に相当時間がかかるため、社会復帰が厳しくなることさえあります。体の負担が少ない鏡視下手術では体力を落とさず入院期間を短くすることが可能です。実際、大腸癌の鏡視下手術では四日程度で退院できる状態になる方もおられ、私自身驚いています。さすがに手術後4日目の退院は心配なので、一週間ほど様子を見てから、退院となることが多いです。

当院で行っている鏡視下手術

当院の鏡視下手術件数を表に示します。昨年は六三件の鏡視下手術が行われました。ここ数年は虫垂炎・大腸癌の手術件数が増加しています。一方で鏡視下手術は従来の手術と比べて難易度が高く、技術と経験に加えて高度な医療設備が必要です。今年一五〇〇万円の最新のハイビジョン手術用モニターと、五〇〇万円の止血装置を導入し、鮮明な映像でより安全な手術を行えるようになりました。手術技術を高めるため、学会や講習会へ参加している他、動物や練習装置を使ったトレーニングを定期的に行っており、今後も鏡視下手術の種類を増やしていく予定です。以下、当院外科で行っている主な鏡視下手術を紹介します。

胸部(気胸(ききょう)、肺癌、縦隔腫(じゅうかくしゅ))
肺に穴があいてしぼんでしまう気胸や腫瘍などで肺の一部をとるときは三箇所の穴で手術を行います。肺癌などの複雑な処置が必要な手術では穴二か所と六cm程度、胸を開いて手術を行います。胸の手術はおなかに比べて傷の痛みが残りやすいため、鏡視下手術を積極的に行っています。難易度が高い手術では開胸手術をします。
胆石症・胆嚢炎
臍(へそ)を含めて四か所の穴で手術を行います。最近は臍に開けた一か所の穴だけで手術する単孔式手術も症例を選んで行っています。従来は炎症のない胆石症を中心に行っていましたが、最近は胆嚢炎でも初期の場合には鏡視下手術を行う機会が増えてきました。
胃癌
早期胃癌に対して鏡視下手術を行っています。臍を含めて五か所穴を開け、胃および付近のリンパ節を切除します。その後五cm程度皮膚を切り、そこから胃を外に取り出して、残った胃と十二指腸をつなぎます。進行癌や胃を全て取る手術では開腹手術をします。
大腸癌
臍を含めて5カ所穴をあけて大腸と付近のリンパ節を切除します。その後約5㎝皮膚を切ってそこから大腸を外に取り出し、腸をつなぎ合わせます。肛門に近い癌や、リンパ節転移が広範の場合は開腹手術をします。
虫垂炎
臍を含めて3ヶ所の穴を開けて虫垂を切除します。特に若い女性の場合は傷が目立たず美容的にも有用です。炎症が強いときは開腹手術になります。

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