2012年03月01日
利根中央病院
耳鼻咽喉科
「最近、食べ物の味がよく分からない」「何を食べても甘く感じる」「口の中が苦い、渋い」などの味覚障害があると、食事の楽しみが奪われてしまいます。
なぜ、こうした症状が、起こるのか、そもそも〝味覚センサー″はどう働いているのか、お話します。
舌の味細胞から刺激を受けて脳へ
味の基本は、甘味、塩味、酸味、苦味と旨味。これらの味を感じる場所は、言うまでもなく口です。では、口の中で、どうやって味を感知しているのでしょうか。舌は粘膜で覆われ、表面には舌乳頭という突起があります。そこに味細胞の集まり「味蕾」が存在し、これが味覚センサーとして働きます。この味蕾、舌や舌の付け根のほか、軟口蓋や咽頭にも分布しています。味雷が刺激を受ける、場所によって異なる3種類の神経の感覚枝から大脳の味覚中枢へと伝えられ、味を感じます。味覚障害の症状は、①味を感じない、薄く感じる②何を食べても甘い、苦い、(異味症)③何も食べてないのに常に渋い、苦いーなどがあります。
これらの症状に一番大きく関係しているのが亜鉛の欠乏です。亜鉛は、細胞や組織の代謝の欠かせない生体必須の微量元素(ミネラル)。味細胞が生まれ変わる際にも亜鉛が必要で、不足すると味細胞が減ってしまい、味覚障害が起こるというわけです。
ファウストフード偏食、常備薬で
亜鉛が不足する原因は次の3つ。いずれの場合も、亜鉛の飲み薬を投与して治療します。
- 食生活が大切
- 食生活で摂取する亜鉛が足りない亜鉛欠乏症。偏食、過激なダイエット、食生活の乱れ(朝食を抜く)などです。また、加工食品に含まれる食品添加物、ファストフード、過剰な飲酒も原因になります。
- 亜鉛の1日栄養所要量は、成人男性が10~12ミリグラム、女性で9~10ミリグラムです。日本人の標準的な献立には9ミリグラムが含まれていますが、若い女性は6,5ミリグラム程度しか摂取していないようです。また、高齢者になり食事の量が減っても亜鉛不足になることもあるそうです。
- 薬剤の内服でも
- 高血圧や糖尿病などの常用薬によって亜鉛不足を引き起こす薬剤性味覚障害。薬剤に亜鉛が吸着してしまうため、体内の亜鉛が欠乏します。
- 全身疾患
- 腎機能障害で亜鉛代謝異常を起こしたり、肝臓、甲状腺、消化器などの疾患でも亜鉛が欠乏することがあります。また、感冒(風邪)のように体内に炎症があると亜鉛の消費が増えます。
唾液分泌の減少も味センサーに影響
また、唾液の分泌が減少しても味覚障害を生じます。免疫異常の病気「シェーグレン症候群」の主な症状はドライマウスとドライアイですが、唾液の分泌量が減ると雑菌が繁殖しやすくなり、味覚障害の一因になります。また食べ物は、唾液で溶かされてはじめて味蕾のセンサーに認識されるので、唾液量の減少は味覚確認を遅らせます。加齢や薬剤によっても唾液が減少するので、よく噛む習慣を付けて分泌を促します。
このはか、うつ病など心因性味覚障害や原因が分からない特発性味覚障害、脳卒中やパーキンソン病によるもの、鼻風邪で匂いが分からない風味障害(カレーを食べても匂いがしないので美味しく感じられない)など原因はさまざまです。
味覚障害の症状があったら、まずは飲酒や刺激物の摂取を止めて、亜鉛の多い食品の摂取やよく噛んで唾液の分泌を促すなど、日常生活を見直しましょう。それでも改善しない場合は、耳鼻科受診をお勧めします。