2012年02月01日
利根中央病院
透析科医長
青木 剛
腎臓は腰部にある左右一対の拳大程度の大きさの臓器で、一日に一リットル程度の尿を作っています。今回は近年になって注目されてきた新しい国民病とも言うべき慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease CKD)についてお話します。
慢性腎臓病とは
慢性腎臓病は表1にあてはまる腎臓の病気のことを言います。この表にあるGFRは糸球体濾過量という意味です。腎臓は図2のような構造をしており、糸球体という細かい血管で血液中の老廃物を濾しとることで尿を作ります。糸球体濾過量は尿を作ることで1分間にどれくらいの血液をきれいにできるかを表します。正常値は100ほどで数値が低いほど腎臓の働きは不良となります。一般的に腎機能は血液検査のクレアチニン(Cr)という項目でみます。Cr値が高いほど腎臓の働きが落ちているのですが、Crは筋肉量に依存し筋肉量が多い人はCr値が高くなってしまい、正確な腎機能が評価できません。このCr値と性別、年齢から糸球体濾過量を推定することができます。この値が60未満であったり尿検査異常が3か月以上続けば慢性腎臓病と診断できます。現在わが国での慢性腎臓病患者数は約1330万人と推測されており、まさに糖尿病や高血圧とならぶ国民病と言えます。症状としてはむくみ、食欲不振、だるさ等が挙げられますが、慢性腎臓病は早期のうちは自覚症状に乏しく、症状が出た時には既に病気が進行していることが多いので、定期的な健診で早期することが重要です。
何故、今慢性腎臓病が重要なのか?
現在我が国では慢性腎臓病に対する取り組みが盛んです。その理由として慢性腎臓病が①透析や腎移植が必要になる末期腎不全に至る可能性がある②脳卒中や心筋梗塞などの心血管疾患を合併しやすい③糖尿病や高血圧、肥満など生活習慣病の患者さんに発症しやすい、ことが挙げられます。2010年の時点で血液透析患者数は我が国で29万人程にのぼり、今や国民の500人に1人が透析を受け、透析にかかる医療費が年間1兆円を超える時代を迎えています。このことから末期腎不全患者数を減らす必要性が急速に高まっている状況と言えます。一方、最近になって慢性腎臓病が心血管疾患の危険因子であることも明らかになりました。心血管疾患対策として糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病の対策の重要性が叫ばれる中、慢性腎臓病の対策を進めることも非常に重要と言えます。
慢性腎臓病の治療について
このように慢性腎臓病は何とも恐ろしい病気のように感じられますが、それではどのような対策や治療をすればいいのでしょうか?まず生活習慣の改善が必要です。禁煙、肥満の改善などが重要です。食事制限も必要で蛋白質の制限、減塩(一日6g以下)を行います。飲酒に関しては日本酒で一日1合程度までなら大きな問題はありません。次に大切なのが血圧管理です。目標血圧を維持することで病気の進行を抑えられると言われています。血圧は130/80未満を目指します(蛋白尿が多い場合は125/75未満になります)。降圧剤の中で腎保護作用を持つ薬を優先的に使用します。もちろん糖尿病、脂質異常症の管理も大切で食事、内服療法や必要に応じてインスリンを使用することもあります。
最後に
今まで述べてきた検査や治療により、慢性腎臓病をなるべく早期に発見しベストの治療をうけることで末期腎不全への進行や心血管疾患の合併を減らすことが可能になります。当院では慢性腎臓病の教育入院を新たに開設しました。これは4日程の入院で現在の腎臓の状態や合併症の評価を行い、看護師や薬剤師、栄養士などの各職種から個別指導をさせていただく入院です。当院は患者さんが病気と向き合いより良い管理ができるよう努力いたしますので、むくみ等の症状がある方や、健診で尿異常や腎臓の働きが悪いと言われた方は積極的に内科受診をお願いいたします。